今回はイタリア・マントヴァに出没です(アド街ック天国風に読んでください)
イタリアに移動した理由は、蟹座だから…
双児宮の話で沙織さんが思ったことは、後々喋ってもらう予定です
何だかどんどん長くなっていくなぁ…何かを根本的に間違えたような気がする
読んで下さってるかた、すみません
モデルにさせてもらったのは「ダル・ペスカトーレ」
…でも、行った事などないのであくまでイメージで
車はVOLVO、XC90のつもりで。お金持ち=ベンツというイメージがありますが、敢えてボルボのSUV
なぜならスウェーデン企業だから(といっても、現在の乗用車はフォード傘下ですけど)
…そしてそんな車と縁がありません、自分
この時間で行ける空路なのかどうかは、あまり気にしないでいただければ…幸いです
沙織はアフロディーテと並んでリストランテの席に座っていた。
彼の前に置かれた食前酒は残りわずかになっている。
侍女と料理人の二人も、テーブルについて料理を待っている。
先週、沙織は昼食の約束をしてから双魚宮に使いを出した。アフロディーテの好みを聞いておこうと思ったのだ。
すると「好き嫌いはないが、普段の食事はイタリアンが多い」と青い万年筆で書かれたメモが返ってきた。
そこで、どうせならと思い以前から行ってみたかった店に行くことにしたのだが…。
待ち合わせの場で連れの二人…身の回りの世話をしてくれている二つ年上の侍女と、厨房でセカンドシェフをしている女性…を紹介すると、アフロディーテは彼女たちにうやうやしく礼をした。
しかし、沙織を見る目には明らかに不満げな色が見てとれる。
「昼前と言ったのに早朝になってしまって、ごめんなさいね」
空港への車中、沙織は小声で詫びた。
アフロディーテは無表情のままだ。低い声で、彼は答えた。
「朝早いのは構いません、それより……侍女たちもご一緒ならば、私よりも適任が」
やはり、この状況にかなり参っているようだ。沙織はわざと気づかない風で、答えてみた。
「このあいだデスマスクとローマに出かけたときは、五人の女の子が一緒だったのよ。
…彼、とっても楽しそうだったけれど」
「奴は特殊です。根っからのイタリア男ですから」
少し表情が崩れた。蟹座の話をすると、彼は小さな男の子のような顔をするときがある。
目的地に一番近い空港はボローニャだったが、一日一便しかない。少し離れたミラノならば何本も定期便が飛んでいるので、まずそちらに向かう。
到着すると、運転手が出迎えてくれ、車まで案内された。自動車についてはあまり知らないが、よく見るセダンより高さがありタイヤが大きい、頑丈そうな車だった。
それを見たアフロディーテが前に出た。
「無理を承知でお願いしますが、私に運転させてもらえないでしょうか」
アフロディーテは丁寧な口調で言うと、美しい頭を少しだけ傾げたのだ。
これには沙織もさすがに驚いた。しかし、もっと困っていたのは運転手のほうだろう。
「ちょ、ちょっと待って… 免許証は持ってきているの?」
「もちろん」
年配の運転手はとまどっていたが何とか説得し、結局アフロディーテの申し出の通りになった。
たぶん、運転すれば車中で女性たちと話さなくとも済むと思ったのだろう。
後部の座席で女性二人と他愛もない話をしながら、ちらりと様子をうかがうと、助手席に座った運転手とアフロディーテが喋っている。車について何やら話しているようだ。沙織にはよくわからない単語が飛び交っていた。
〈案外、楽しそうね〉
バイオリンで名高いクレモナを通り、二時間も過ぎるとあたりには畑が広がり、すっかり田舎の風景に変わる。
その畑の中に、木々に囲まれたリストランテがあった。
沙織たちが降りると、運転手は給油と食事を兼ねて街中へ行くという。一緒に食事をと引き止めたのだが、彼は仕事ですからと丁重に断り、三時間後に再びここに戻ると言い残した。
前日まではアフロディーテを怖がっていた侍女たちだったが、車から降りて数分もしないうちに
「すっごく、きれいな人ですねぇ」
と沙織に耳打ちをしてきた。双魚宮の主が美しいという話は彼女らも知っていたが、普段は間近で彼を見る機会などない。
席に着いても、アフロディーテの顔をチラチラと見ては二人で顔を赤くしている。
店は家庭的な内装で、それなりに高級な雰囲気はあるが堅苦しくはない。地元でとれた食材を使った田舎料理がメインというところが、ここを選んだ理由だ。
今回は特に、日本からやってきた二十代の女性料理人にとって勉強もかねている。
彼女が、口を開いた。
「こちらのシェフは、女性なんですよ。それも、三ツ星の…
それで私、ご一緒させていただきたいと無理なお願いをしたんです」
少しぎこちない英語で、アフロディーテに話しかけた。
「そうなの。彼女も料理人だから、勉強したいって」
沙織が付け加えると、アフロディーテが答える。
「ほう、女性の三ツ星ですか。それはすごいですね」
「私はフランス料理の修行をしていたんですが、色んな国の料理を知りたいと思って」
「あ、私も、サーブの仕方とか参考になればと思ってきたんですよ」
侍女のほうも、いつもより高い声で会話に入った。
そうしているうちに、皿が運ばれてくる。
カリカリに焼かれたチーズを一口食べ、アフロディーテが少し驚いた顔をした。
「どうかしら…?」
沙織がおそるおそる尋ねると、彼は皿を見つめて答える。
「Mums」
「え」
「とても、おいしいです」
その言葉を受けて、沙織もチーズを手にとった。香ばしさとまろやかさが広がる。
アフロディーテは黙々とワインを飲んではチーズを口に入れている。
郷土料理のかぼちゃのトリテッリが出されると、沙織のセカンドシェフは真剣な表情で皿をにらんでいた。
「イタリアは地方料理が多彩ですばらしいですね…」
「あ、デスマスクはイタリア出身よね。彼にも『マンマの味』みたいのがあるのかしら」
沙織がふとつぶやくと、アフロディーテが言った。
「いつ覚えたのか知りませんが、奴は料理は得意ですよ。特に、魚料理が…
修行したシチリアの料理らしいです。どれもこれもやたらと大皿なので、食べるのが大変ですが」
その言葉を聞いて、セカンドシェフは声をあげた。
「まあ! シチリア料理ですか、興味あります」
「そうなの、デスマスクって料理できるのね。私も食べてみたいわ」
「強くてお料理もできるなんて、スゴイです〜」
沙織と侍女も思わず感嘆した。その様子にアフロディーテは眉をひそめ
「しかし、奴は色々と…」
デスマスクが過去に犯した軽めの悪さをポツリポツリと話し出した。
その話に侍女が「聞いた事がある」などと相づちをうち、沙織が驚いたり納得しているあいだに、また次の皿が出てくる。
他愛もない巨蟹宮の小話をしながら、地魚のテリーヌ、リゾットや牛の煮物などを皆が平らげた。普段の食事に比べると量は多いが、話しているうちになぜだか食べられたのだ。
ドルチェは、運ばれてきたジェラートから各々二種類選ぶようになっていた。
給仕が皿に宝石のような色をしたジェラートを盛っているのを見ていて、沙織はふと思いついた。
「あの、忘年会の料理をどうしようかと思ったのだけど」
「そうですね、まだメニューを決めていませんでした」
料理人の女性が答える。さらに沙織が続けた。
「宴会での食事の献立は、デスマスクの意見を参考にしてはどうかしら。
何なら、お手本を作ってもらって」
「…デスマスク先生のお料理教室、みたいな」
酒の回った侍女が、笑顔で合いの手を入れた。
アフロディーテは一瞬目を丸くしたあと、窓の外を見て笑った。
「それは、適任です」
やたらと嬉しそうな顔で、あごをなでている。
食事が終わり会計を済ませたあと、セカンドシェフはこの店の料理長と言葉を交わしていた。侍女のほうは、まだお土産を選んでいる。
沙織とアフロディーテは先に店の外へ出て、料理長から手渡されたオリーブオイルを片手にゆっくりと車に向かっていた。
「今回は、デスマスクのお話をしようと思ったのに」
風になびく金髪の先を見ながら、沙織が少し不満げに言うと、
「奴の話はこれで充分です」
アフロディーテは柔らかく微笑んだ。
「ところでアフロディーテ。帰りはまさか運転しないでしょうね」
「もちろん。飲酒運転はしませんよ」
「そう、よかったわ」
「ええと…アテナ…」
「?」
後ろに、侍女たちが出てくる気配がした。
アフロディーテが、上着のポケットから何かを取り出し、開いた。電子辞書だ。
「あぁ、この言葉か。ヨーロッパの言語では、そのまま置き換えられないんですね。
I'm doneでは足りない。Thank you for a wonderful meal…でもちょっと違うようで」
「え、なあに?」
沙織がのぞきこむと、液晶の画面には「ごちそうさま」の文字があった。